『人魚の話』


「わたし人魚になりたいの」

 

 彼女はそう言って海へ向かった。
 そして帰ってこなかった。

 

 着の身着のまま携帯電話で話しながらざぶざぶと。
 彼女はこれ以上ないぐらいに身の回りを完璧に整理して。
 すべてを捨て去って。
 だから彼女に繋がるものはすべてなくなった。
 ただひとつを除いて。

 

 彼女の使っていた、最後まで話していた携帯電話だけは今も繋がる。
 そこからは揺らめく水音と楽しげな女性の笑い声が聞こえてくる。

 

 きっと彼女は人魚になったのだろう。

 

〈了〉

 

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