『先逝く者』


望んだものはなんだったのか
願ったものはなんだったのか

望めばすべては手に入ると、
願えばすべては叶うと、
そう 信じていたのに……。

 
今までがあまりに満ち足りて幸せだったから、それが当然だと思っていたから、
だから私は忘れていた。
何かを得れば何かを失い、全部を手に入れることなど不可能だと。

わずかにでもあなたと離れると、世界はあまりにも混沌としていて不可解で困難があふれていて。
とても恐ろしいもののように思えた。

けれど、あなたの笑顔も優しさも何も変わることはなくて、
わたしだけが不公平に苦しんでいるように思えて、
そのことを再確認させられているようで、
あなたのそばにいることが辛かった。

あなたと離れていても苦しくて、
あなたのそばにいることも辛くて、
苦しくて苦しくて辛くて辛くて。
わたしを苛む原因はすべてあなたにあるように思えてきて、
 
あなたがとても愛しくて、あなたがひどく憎かった。

 
傷つけたくないのに、
わたしの内から生まれ出でたものは黒くどろどろとして醜く、
まさにわたしの心だった。
黒いものはどんどん外側へと流れ出し、あなたを追いかけ傷つける。
 
わたしの心は黒いものが流れたせいでほとんど空っぽになってしまった。
ひどく寒くて、ふわふわと体の輪郭があいまいになる。
 
感覚すらも模糊となり、
光はどんどん失せていき、
自分の吐息さえも聞き取れない。
 
わたしは遠くあなたから離れていこうとしている。

あなたには伝えたいことがたくさんあったのに。

 
ありがとう
あなたがわたしを愛してくれたように、わたしもあなたを愛していました。

 ごめんなさい
 あなたを傷つけ苦しめてしまったことを。わたしは自分勝手で弱かったことを。

さようなら
本当は決して言いたくはなかった言葉。ずっとずっとあなたと一緒にいられると思っていたのに。

 
わたしがいなくなったなら、きっとあなたは自分を責めるでしょう。
あなたは優しい人だから。
それはわたしにとっても辛いこと。
わたしはあなたを救いたい。

だから、わたしの内にあなたを傷つける心があるのなら、あなたを守る心もあるはず。
わたしはあなたを守りたい。
残りわずかだけれど、全身全霊をかけて願い望みます。



〈了〉

 

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