●大神小説2●しょーとかっと


しょーとかっと


 アマテラスとスサノオの(?)協力もあり、コカリは無事に新たな橋を架けることができた。
 一人前への階段を無事ひとつ登ったコカリは愛犬梅太郎とともにそれを喜んだ。小さな主人に勇気の手本を見せ、それに見事応えたひとりと一匹の友愛の情はさらに固く強いものへとなったようだ。
 生き物を見れば、人間であろうとなかろうとじゃれつかずにはいられないアマテラス。けれど、アマテラスが頭突きをかましても、コカリと梅太郎とのその熱い抱擁が解けることはない。めげることを知らないアマテラスではあるが、幾度じゃれついてもふたりきりの世界に行ってしまったら相手にしてもらえない。
 アマテラスの挑戦が二けたに突入するころには、頭の上のイッスンが、あきれながらもいい加減にしろ、と怒るので、あきらめることにした。緑色のこの小さな生き物は、喧嘩っ早いくせに何くれなくアマテラスの世話を焼こうとする。
 イッスン曰く、アマテラスはとてもボアッとしているらしい。それはなにも百年間石像に宿って眠っていたからというわけではないだろう。いくらなんでも寝起きが悪すぎる。そんなところが緑色のこの小さな生き物の兄性本能(?)を刺激するのだろうか。実のところ、神であるがために計画性というものがないアマテラスには、イッスンの存在は案外ありがたかったりする。
 コカリと梅太郎をなごりおしそうに見ながら、アマテラスはできたての丸木橋を渡ってアガタの森を後にした。



 渓谷を抜けた先に広がるのはドロドロとした色の大地が広がる。見事なほどのタタリ場が広がっていた。
 タタリ場にのまれたそばに地名をしるした石碑がたてられている。そこに刻まれている文字は『高宮平』。
「高宮平って言えば、常に風が吹き降ろしていて風光明媚な場所だって話だけど、見ての有様じゃそれも台無しだな。塞の芽を咲かせて辺り一帯のタタリ塲を祓ってやろうぜェ!」
 勢い込んでイッスンがそう言うが、アマテラスは茶屋のおやじが握っている団子によだれをたらし、なんとか落とせないかとさっそく果敢な突撃を繰り返している。けれど思いのほか茶屋のおやじの抵抗は強い。しぶしぶあきらめて竹林に生える筍で我慢する。イッスンは早く塞の芽を探せとせっつくので、辺りをぐるりと散策してみればどうやら高台の上に塞の芽がある気配がする。
と、アマテラスはくるりと体の向きを変えると、元来た道を戻りだす。
「おい、おい! どうしたってんだよ、アマ公!」
イッスンがわめいているがおかまいなし。ぐんぐんと加速をつけ、目の前に『高宮平』の石碑。おもわずイッスンはマテラスの毛をつかんで体を固くする。
石碑にぶつかる寸前で、アマテラスは地面をいきおいよく踏み切って飛び上がる。さらに石碑を蹴ってもう一段高くへ。跳躍が最高点に達した瞬間、頭上にそびえる崖の上に何かが見えた。くるくると渦巻くようにのびた特徴的な姿。
 ちらりとしか見えないが、間違いない。塞の芽である。すかさず筆しらべでもってくるりと輪を描く。桜花の力によって立ち枯れていた梢に満開の花が開いた。
見事に蘇った塞の芽。産土神の力は再び大地に満ち、またたくうちに伸ばされた癒しの手はかつての木々の緑を、花々の色を、水の青を取り戻す。あっという間にタタリ場は祓われ、後には澄んだ空気を抱く高宮平の姿があった。
 大神おろしに興奮して頭の上で跳ねるイッスン。満開の塞の芽を見るアマテラスの表情もどこか誇らしげだ。
「ちょっと待ってくれよアマテラス君!」
突如呼び掛けられて、んあ、と不思議そうな顔で振り返る。そこには、
「インチキ野郎!」
イッスンが頭から湯気をたてながら腰の刀を抜き放つ。イッスンの言葉の通りに、そこにいたのはウシワカであった。
「ひどいじゃないかアマテラス君! こんな裏技を使うなんて! ちゃんとした道を通ってきておくれよ! ミーはずっと待ってたのに!」
そう言うウシワカは、怒っているようだが、どこか寂しげでもある。
「なに言ってやがる! アガタの森じゃ、オイラ達の行動が遅いのなんの言ってたじゃねぇか! こんなにてっとり早く塞の芽を蘇らせてやったのに、文句を言われる筋合いはねぇや!」
「ゴムマリ君には関係ないよ! これはアマテラス君とミーの問題さ!」
「アマ公とお前になんの関係があるってんだ!」
「ゴムマリ君には関係ないって言っているだろう! まあ、昨日今日の関係じゃないことは確かだね」
ぎゃんぎゃんと言い合いをするイッスンとウシワカ。アマテラスはといえば、ぽやんと眺めていたが飽きると、くあっ、とあくびをひとつして体を丸めて寝息をたてはじめた。

〈了〉

 

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